学生服販売店の事業承継としてのM&Aについて

 M&Aと聞くと大事のように聞こえますが、本質的には今あるお客様に対して迷惑のかからないように事業継続を目的として譲渡を受けるということです。世間一般的には事業は継続していくのが前提でお客様はそのお店で購入しています。特に購入後のお直しなどのアフターフォローが最大の要因です。購入後いきなり閉店されたらお客様は困ってしまいます。T&Yとしては今までに事業規模(売上)1000万円~5000万円までの販売店を5件、M&Aしてきましたのでノウハウは積んでいます。

 事業承継の種類としては最も望ましいのが ①親族内の事業承継 です。自分の妻や子供、親せきなどにそのまま社長交代などで継がせることです。T&Yも創業者の祖母(トヨ)から母(美子:現代表)、そして私に承継されています。その次に望ましいのが   ②親族外の事業承継 です。ずっと一緒に働いてきた番頭さんなどに引き継ぐものです。このメリットとして今までの方針と同じで運営するので事業面で大きなトラブルがないということです。反面、今までオーナーが行ってきた金融機関などからの借り入れや賃貸物件などの個人補償を負わなければならないため、引き継ぐ側に大きな精神的・金銭的な負担がかかります。特に学生服の販売という業態は少子化による売り上げの減少と、販売店とアパレルメーカーとの力関係が変わってきて販売店が弱くなっている為に自分の子供や番頭さんなどに継がせることが困難になってきています。またそもそも自分と配偶者の二人で切り盛りしている場合は相手がいないです。

 しかしながら先にも述べたように学生服の販売店というのは販売してからも、販売した生徒が卒業するまでの3年間、成長に伴うお直しのアフターフォローの道義上の義務が発生する為、スパッと廃業することが困難です。特に地元で営業していることが多いでしょうから廃業後にもそこに住み続けるため、近隣の方との関係を考えると廃業してあとは知りませんとは気持ち的に抵抗があります。

 そこで ③M&Aを利用した第三者に事業承継する という方法がとられます。M&Aとしては世間的にはM&A仲介業者が間を取りもつ方法が一般的で、グループで運営している保育事業などは事業規模も大きいことから日本中から「売ります買います」の問い合わせがよく来ます。一方で、学生服の販売という事業は規模が小さく(店舗売上が1000万円~5000万円程度)仲介業者の利幅が少ない、また閉ざされた業界であり見向きもされません。そこで、M&A仲介業者の代わりを担うのが取引の多い仕入れ先アパレルとなります。仕入れ先アパレルの担当者に相談することにより、アパレル担当者は自分のチーム内の他の担当者などと協議して近隣の業者に橋渡しを行います。一見理想的な形と思いますがアパレルからすれば自社に最大限有利となるような橋渡し(お見合い)を目論見ますのでそれが譲渡する側、される側にとって最も良い形とならない場合があります。私としてはやはり販売店の立場としてはいかなるM&Aも譲渡する側とその販売店に連なる数々のお客様にとって最善となるべきだと考えて、T&Yとしてのノウハウを開示したいと思います。

 学生服販売業というのは大変利幅がすくなく、資金的に余裕のある会社を私は知りません。事業承継に伴い譲渡側が儲かるということは考えないでください。その価値というのは簿価としての商品資産(モデルチェンジなどをしていない健全な販売可能な製品在庫)と、あくまでも今まで培ってきた学生服販売店の地元ブランドとしての屋号、そしてその背景にあるお客様です。しかし、屋号は資産価値がありますが一般企業と違い販売後の顧客は学生服業界ではアフターフォローを無償で受けるという「負債」です。承継を受ける側はこの「負債」も受けるということで「屋号:のれん代」からオフセット(差し引く)されなければなりません。また、少子化も加速(過去10年間で全国の出生数は年平均2%減)していることを勘案したうえでのDCF法※を用い(利子は自己資金で賄うため除外とする)

予想される営業利益=直近の年間売上×少子化率(全国平均2%)×その事業の利益率(大体2~3割弱)-固定費(店舗賃料等)-人件費(年250万:小規模店舗)-アフターフォローお直し経費(年間売上の1%を3年間)

 のれん代の償却は会計基準としては「20年以内のその効力が及ぶ期間」ですが、5年程度で回収しなければ事業として成り立ちませんので5年とします。・年間売上が2500万円(新入生受注人数500人)・賃料等固定費月20万円 ・利益率25%の店舗の場合(パンフレット等の販売促進・学校営業経費を除く)の営業利益は

1年目:98万円 2年目:82万円 3年目:65万円 4年目:71万円 5年目:54万円 1~5年合計:371万円

 となります。学校営業経費・パンフレット代等差し引くとおおよそ250万円として引き継ぐときの直近年間売上の10%となります。

 この直近売上の10%がのれん代として妥当です。これ以上でもこれ以下でもいけません。これに付随して帳簿上の流動資産ではなく再販売可能な健全な在庫としての棚卸を譲渡を受ける企業が行い、その金額を上乗せした金額を譲渡金額とします。この金額を譲渡元のオーナーは金融機関からの借り入れに充当するとかオーナーとしての退職金の代わりとするのが望ましいです。そのあとは譲渡元の会社の税理士と相談し適切な形で会社清算もしくは継続されてください。なお、この規模のM&Aとしての株式譲渡は、その後の会社維持経費を考えるとおすすめしません。

 譲渡を受ける側としての資金繰り面でのテクニックとしては、譲渡元の主力取引先アパレルの協力を取り付け、その商権の仕入れを継続する代わりにその商権の商品の返品を一旦受けてもらうのがいいでしょう。返品するタイミングは譲渡前です。2500万円の会社の商品簿価は商売のやり方にもよりますが500万円~1000万円程度あるでしょうから繁忙期に仕入れなおす約束をする代わりに金融機関等からの借り入れをせずにのれん代のみ頑張って集めて支払えば済みます。

 以上が損得勘定としてのM&Aの詳細です。しかし事業承継は損得勘定だけでは成立しません。事業譲渡を受ける側としての心構えとしては、譲渡元のオーナーがその土地でその名前で商売を続けてきた歴史を引き継ぐ、つまり生涯をかけて築き上げた名前を引き継ぐということを忘れずに、折り合いがつかないことがあっても尊重し続けることが大事です。

 業界全体として低収益にあえぐ中、濡れ手に粟のようなM&Aは存在しません。気持ちがなければ成立しないということを理解したうえで臨んでください。

 譲渡が完了するまでの学校への根回しの仕方や秘密保持契約書のひな型など、興味がある方はお問い合わせください。

※DCF法 https://ja.wikipedia.org/wiki/DCF%E6%B3%95

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