学生服用生地のポリエステルとウールの特性 ~テカリとプリーツ~

 夏休みなど長期休暇の時は学生服のお直しがとても多くなりますね。店舗の休みも重なって、休み前には集中します。そんなお直しですが

①成長に伴う裾だしやウェストだしなどの補正

②物理的なダメージに伴うほころびや擦り切れなどの補修

 の2種類が主な要因です。成長機能に関しては商品ごとに裾・ウェスト・袖や脇など各々異なります。今回説明したいのはダメージの補修に伴う素材特性の説明です。具体的には学生服の生地にはポリエステルという素材とウールという素材の二種類が使われます。ポリエステル100%やウール100%というものは少なく二つの素材を混紡したものがよく使われます。それぞれの特性を学生服の観点から簡単に説明しますと

ポリエステル:安価・しわになりにくい・ 吸放湿性がない・熱に弱い(熱可塑性がある)

ウール:高価・風合いがよい・吸放湿性がある・熱につよい

ウールについては詳しくはhttps://www.woolmark.jp/fibre/を参照

 ポリエステルとウールはお互いの強みと弱みを補う効果があります。そこで学生服業界ではその二つを混紡した生地をよく使います。

 余談ですが、現在学生服業界は値上げを進めていますが(2021年現在)、その主な原因はウールの価格高騰です。ウールは羊さんの毛ですから画一的に機械からできるのではなく天候や様々な要因が重なり値上がりしやすい素材です。一方でポリエステルは石油から画一的にできるので価格が安定しやすいです(石油の値上がりなどの影響もありますが、繊維に対するPET原料などの相対的影響はウールほどではありません)。そしてウールは天然素材ですからいくら羊さんを鍛えてもウールの特性はあまり変化はありませんが、ポリエステルは化学品で工業品ですから、日進月歩で技術が進み、機能が改善しています。例えばポリエステル素材自体は吸放湿性はありませんが、ポリエステルの繊維を丸形から星形などの異形にすることにより毛細管現象などの物理現象により水分を吸い上げたり、肌に触れる断面を小さくして風合いを柔らかく良くしたりすることができます。ポリエステル100%の学生は安物というイメージがありますが、いつかはウールを超えるポリエステルができるかもしれません。

 話を戻しますが、学生服のお直し品を受け取るとお尻の部分や袖などが擦り減っているものが多くあると思います。学年が上がるごとに服のダメージが大きく、お直しが困難なものが多くなります。 

 その中で散見されるのが商品自体のテカリです。テカリ自体はお直しの対象ではなりませんが商品自体の品位に影響します。テカリの原因は繊維の表面がつぶれて平らになり光を反射することによって発生します。ポリエステルは一度表面がつぶれてしまうと元に戻りません。ウールの場合は以前洗濯の回で説明したように人の髪の毛と同じように繊維の表面に突起物(キューティクル)がありそれが押しつぶされて平らになってしまっているので、アイロンのスチームをかけることにより押しつぶされてしまったキューティクルを戻すことができますのでテカリをある程度改善することができます。あくまでも「ある程度」であり、またポリエステルとウールの混紡がほとんどですから、お客様への説明では「テカリを消せます」とは決してお伝えしないようにして下さい。

 さて、ポリエステルとウールの比較でもう一つお伝えしたいのがプリーツ加工です。女子学生服のスカートのほとんどなぜかプリーツ加工が施されています。学生服の歴史に詳しい私でもなぜこれほどまでにプリーツ加工が採用されているのかわかりません。事実として、T&Yの扱っている学校のうち、プリーツ加工をしていない学校は1校(215校中)です。謎。もともと女学校が明治~大正時代にできたころに着用されていたのが袴だからでしょうか。。謎。

 プリーツ加工とは簡単に取れないヒダを生地など施す加工で、この形状により風合いや伸縮性など様々な機能を持たせるのが目的です。空気清浄機の中にある交換フィルターのヒダもプリーツ加工です。小さな空間で気体を効率的に膜を通すように施されています。学生服のプリーツ加工は前述のようになぜついているか謎ですが、すでにプリーツスカートが女子学生服を連想するように手段が目的となって今では必須の加工です。

 ではプリーツ加工を詳しく説明しますとポリエステルとウールで加工の仕方が異なります。ポリエステルは前述のように熱に弱いとありますがそれと同時に熱可塑性というものがあります。熱可塑性とは簡単に言うとポリエステルの容器などをライターなどであぶると燃える前に一度ぐにゃっと変形したりしてそのまま冷ますとその形のままでいると思います。ある一定以上の熱をかけて形を作り、そのまま冷やすとその形を保持する性質です。この性質を用い熱に強い紙でおられた型紙にはさんで

 固定した状態で圧力釜に入れて形を固定します。

真空圧力釜

 ウールの場合は熱可塑性がないため床屋でパーマをかけるときに使うパーマ液のようなものを使い、ウールの中にあるたんぱく質の一部のシスチンという物質の結合を一旦放し、形を固定した状態で再度結合させることによって形を保持させます。

 学生服の場合はポリエステルの混率が50%以上の生地が多く、おおよそポリエステル50%以上であれば加工剤無くポリエステルの熱可塑性だけで保持可能なので、T&Yのほとんどのプリーツスカートは薬剤を使用していません(ウール100%の生地を使用している一部の学校は使用しています)。

 採寸中のお客様への小ネタの一つとして持っておいてください。

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