海外生産のジレンマ

 最近へこむことばかりで面白くないです。でも毎日やることがありますので何とか前に進んでいくしかないです。

 いつも書き出しに一言添えていますが、その時のテンションを時期とともに追ってみると自分の精神状況が反映されていて客観的に見て面白いですね。アゲアゲの時もあればテンサゲ(死語)の時もあるのですが最近はずっと業界の変動とともに下げばかりになっています。

 さて、これを読まれている皆さんはもちろんよくご存じかと思いますが1997年にアメリカの経営学者のクレイトン・クリステンセンが提唱した「イノベーションのジレンマ」という著書があります。簡単に説明しますと、

「企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。例えば高いカメラ技術を有していたが、自社のフィルムカメラが売れなくなることを危惧して、デジカメへの切り替えが遅れ、気付いた頃には手遅れになってしまっていたなどがある。」※ウィキペディアより引用

 さて、最近生産背景の枯渇による各社の取り組みの中で、特筆すべき対応として「海外生産」があります。本来の持続的改善としては既存の国内自社工場の増産体制の構築、小ロット対応の効率化、人員や外注先の確保、国内縫製工場のM&Aなど大手メーカーが行っておられますが、いよいよそれでは間に合わず、本格的な「海外生産」にチャレンジしようとされていると思います。ここで差し出がましいことですが考えられる2パターンを考察してみたいと思います。

①国内生産と同様の備蓄

 以前のブログで在庫の持ち方を述べましたが、

https://blog.t-and-y.co.jp/?p=296

ここでふれたように必要数は正規分布に従いますがその端のサイズを備蓄せず中心のみの備蓄とした場合は端のサイズを繁忙期に生産することになります。その場合、海外では一番効率のいい(おいしい)ところのみ生産して、海外工場も国内メーカーもお互い採算良く生産(仕入)できます。しかし、繁忙期の追加生産時に国内工場にかかる負荷は国内のみに特化していた場合と比べ、国内分の追加生産に加えてその海外生産分の追加生産も加わる為に、国内繁忙期生産キャパに倍の負荷がかかることになり、生産背景の枯渇に対する対応としては全く逆の対応(これは利益を出すための施策)となり、国内生産キャパをさらに酷使する状況となります。

②端のサイズも含め国内生産よりも多く備蓄

正規分布の端まで(3σまで)、さらに中心サイズの誤差も含めて多めに生産すると

当然ですが本来持つべき以上の在庫負担となります。各アパレルメーカーとも慈善事業ではありませんから決算上の制約を受けるわけで、もちろん棚卸資産(在庫)を無尽蔵に増やすことはできません。そのしわ寄せとして、各販売店に併売物件の在庫をシフトする事になり、それで決算上の帳尻を合わせるほかありません(棚卸在庫水準が上がるの防ぐには他に方法はありません)。アパレルメーカーの立場ではあまり実感が湧かないかもしれませんが、この併売物件の在庫を販売店に持たせるという事は、つまり販売店が今まで持っていなかった在庫を持つという事で、資金面で脆弱な立場の販売店にはとても厳しい要求となり、経営を断念するところも出てまいります。

まとめますと

①国内生産と同様の備蓄 → 国内生産キャパにとって破壊的

②端のサイズも含め国内生産よりも多く備蓄 → 販売店にとって破壊的

つまり、「学生服の海外生産」は、業界にとってはいずれにしても破壊的なイノベーションとなります。しかし、もう後には引けない環境となっている為、アパレルメーカー各社は覚悟を持って臨んで頂きたいと思いますし、我々販売店もこれから来る大きな変化に立ち向かわなければなりません。

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