円安で浮彫になってきた学生服販売業界の苦境

 みなさま。大変ご無沙汰しております。最初にこのブログを始めるときに、お世話になった方に、いつ更新するか最初に決めたほうがいいとアドバイスを頂き、守ってきました。更新頻度を設定することで読者が増えるとの事でまさにその通りだと思いました。しかし、予想されたことですが、継続すること叶わず、ここで敗北宣言と共に更新頻度を設定しないことに致します。これからは不定期に更新してまいります。意志の弱い私を責めないでください。。

 さて、今回は急激に進む円安が及ぼす学生服販売業界への影響について整理したいと思います。あくまでも私個人の見解です。最初に、私はFX取引などはしておりませんが、若干の商品を海外から輸入する関係上、為替に敏感です。主にニット類が多いのですが昨年の3月に海外から仕入れました前開きニットベストを現在税込1890円で販売しております。最近このタイプがあまり流行っておらず、在庫がだぶついてしまっているための処分価格です。つまり原価がこのくらいと思ってください。この商品を、他は同じ条件で今の為替で輸入販売するとしたら為替の影響だけで2500円になります。このくらい円安のインパクトが強いのですが、学生服業界の商品は品種毎に円安インパクトの強弱は異なります。

 2021年7~9月のドル円均衡値は105円で、昨日150円となりましたのでその差は1.43倍、簡単に考えるために1.5倍とすると

ほぼすべての生産工程が海外の商品は海外から商品そのものをドルで仕入れるため価格が 1.5倍 になります。

 ・定番角衿ワイシャツ:2000円→3000円

 ・体操用半袖Tシャツ:1500円→2250円

 ・体育館履き:3000円→4500円

 主原料が海外から輸入して国内で生産する商品は原価に対する主原料比率がおおよそ2割程度を占めますので2割×1.5+8割×1.0=1.1倍

 ・体操着(ジャージ上下、ハーフパンツ)4000円→4400円

 ・通学用カバン10000円→11000円

 主原料も国内生産だがその主原料が輸入の場合(主にウール生地)は2割×2割×1.5+9.6割×1.0≒1.0(ほぼ変わらず)特にウールは相場もありますので為替のインパクトは相対的に低い

 ・学生服本体(上衣・スラックス・スカート) 変わらず

 これはあくまでも為替だけの価格に対する値上げ要因です。学生服本体の為替の影響はあまり受けませんが、学生服業界以外の衣料品業界は2021年度の海外品輸入比率は点数ベースで98.2%(出典:日本繊維輸入組合「日本のアパレル 市場と輸入品概況」)となっており、この98.2%にも登る海外からの輸入品のうちの一部高額アパレル品が円安の影響により採算が合わなくなっており一斉に国内の縫製工場に移ってきております。(例:アパレル、国内生産回帰 ワールドなど人件費増や円安でhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC261KT0W1A121C2000000/)

 この結果、今まで国内の工場へ潤沢に注文を出していた学生服業界ですが、国内の工場の生産能力が、この海外から戻ってくるアパレル商品に圧迫されてきており、更に「縫製工員の高齢化」「円安とコロナに伴う外国人技能実習生の大幅減少」「日本人新規就労者ほぼいない」「赤字体質による人材・設備投資余力ほぼゼロ」でこの3年くらいで急速に国内生産能力が激減しています。

 更に悪いことに、コロナ禍で控えていた学生服のモデルチェンジが一斉に動き出し、2023年度向けの学生服のモデルチェンジ数は2022年度比1.5倍程度(ニッケ調べ)といわれております。モデルチェンジという事は、今まで学ランなどの定番商品で大量生産していた商品が、それぞれの個別の学校毎のデザインの生産となります。つまり、業界に一定数ある定番学ランの流通在庫は使えず、一気に新入生分+予備分の生産が増えます。これは縫製工場だけでなく、生地工場の段階から黒のカシドス生地→別注生地の多品種小ロット生産のかけ合わせで10月現在でもすでに生地が大幅に遅れている模様です。

 昨年の一部専門店の納期遅れ騒動は序章に過ぎないかもしれません。今年度は更に状況がひどくなるのは必至です。我々は結局最後は「ケツを合わせる」、「結局何とかなる」という業界全体の変な一体感で乗り切ってきましたがもう乗り切れる状況ではない事は明らかです。

 学生服販売店としては、今からできることとしては、

・納期遅れが発生する場合はお客様と学校への早めの丁寧な説明を心がける

・過度なモデルチェンジは控えるなどの学校への提案

・安定的な調達ができる商品の比率を増やして早め早めの発注を心がける

・謝罪用スーツの新調

しかありません。

 また、制服モデルチェンジを主体的に提案するアパレルメーカーへの苦言ですが、学校からの要望に応えようとして努力されるのは理解するのですが、安定調達できない素材の組み合わせで差別化を図るのは控えていただきたい。各生地メーカーが持っている定番生地の組み合わせをするなど、特にスカートやスラックスなどの意匠性を競うアイテムは相反しますが調達安定性まで視野に入れた提案力を磨いていただきたい。既に別注生地が相当遅れていると聞こえてきています。

 ここ数年は現状を引きずり厳しい状況が続くと思いますがそれを踏まえたうえで私自身としてどうしていくかメモ程度に書き残しておきます。

 まず、「商品の価値を上げ、お客様や生産者を含む携わるすべての人が報われる形」を作らなければなりません。価値を上げるとはどういうことか、、、難しい課題です。整理するために河井拓氏の著書「ブランドで競争する技術 」にある3つの価値で考えます。価値を3つに分けると、「機能価値」「サービス価値」「イメージ価値」となるそうです。

学生服の外形的な必要要件として

・学校毎のデザイン

・私費購入

・着用期間が在学中

・長期間の着用に耐えられる

実質的な要件として

・愛校心をはぐくむ

・経済的な格差を防ぐ

・生徒指導としてある程度規格化

となります。このそれぞれに対して要件と価値の分解をした図(思いっきり主観)です。

 学生服販売店が主に関わる部分は②、④、⑤、⑥、⑧です。それぞれ細かいことを小まめにやっていくことが大事です。「商品の価値を上げ、お客様や生産者を含む携わるすべての人が報われる形」にするには、学生服販売店としてはとやかく講釈を垂れるのではなく、⑥安価に もしくは ④コスパ 良く 保護者(消費者)に販売しつつ、携わるすべての人の給料を上げることにつきます。メーカーにも販売店にも「価値を上げて高く売る」という人が多いですが、その「価値」とは具体的に何を指しますか?おそらくその人たちが言う「価値」のイメージは ③校風を具現化 した結果高く見える制服だと思います。しかしその校風を具現化した価値を上げるのはあくまでも学校と生徒です。以前東京都中央区の小学校が「アルマーニ」の制服を導入するのが話題になりましたが、その高い制服を受け入れるのはあくまでのその土地がある学校とそこに通う生徒が価値を上げるのです。同じ商品を地方の過疎の小学校が導入したらどうなるかを想像すればわかります。

 我々学生服販売店としてやることは仕入れ先を巻き込みつついかに、一人当たりの生産性を上げ、商品がお客様に届くまでに携わる人の手を減らすことにより相対的に⑥安価に④コスパの良い「価値」を向上させるしかありません。繰り返しますが、今そこにある「学生服」の価値が無価値といっているのではなく、その「学生服」の価格的な価値を向上させることができるのは学校と生徒及びその地域であり、その価値が向上したならばその対価を受けるのは学校と生徒であって我々供給サイドではありません。これが一般的なブランドビジネスとの違いです。コストプッシュによる原価アップは供給サイドの問題です。そこをいかにマネージしていくかに今後の業界の存在意義がかかっていると思います。

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